佐賀県玄海水産振興センターが開発したハムやみりん干しなどナルトビエイ加工食品の試食会に参加したことがきっかけでした。
「社長 今度ナルトビエイの試食会があるから一緒に行きませんか」
それは、弊社がいつもお世話になっているT女史からのお誘いでした。
「ナルトビエイ???? よく判らないけど行ってみるか。。。」
試食会場に行ったらそこには沢山の人が。
そして、テレビ会社が2社 地元のNHK と佐賀テレビ。
「なんだか大掛かりだな」と独り言を言っていたら突然マイクが。
「あの、NHKですが インタビューよろしいですか?」
「はい」恐る恐る答えると。
「いつから事業化されるんですか?」
「事業化?なんですかそれ」
「今回の試食会は、ナルトビエイを使った事業化の話なんです」
「そうなんですか、知りませんでした。じゃ、うちとは関係ありませんね。」
そう答えてもしつこくマイクが。
「事業化されるんですよね。。」
あまりのしつこさに、私はテレビ局の質問に合わせるように質問に答えました。
同じ様にT女史にもインタビューが。
「ナルトビエイの料理は美味しかったですか。」
T女史曰く「はい、美味しかったです」
次の日にテレビを観ていたら放送が。
「あっ、Tさんが出ている。」
いよいよ自分の番だ。私は自分の出番をかたずを飲んで待っていました。しかし、番組の終わりまで私の姿を観る事はできませんでした。
そう、前面カットなんです。私の発言は何だったのだろうか。。
しかし、この発言が後日活かされます。
そこで示された主な内容は
1. ナルトビエイは旨み成分や甘み成分がアカエイの2倍あり美味しい食材である。
2. ナルトビエイは、脂肪分が少なくヘルシーである。
3. しかし、臭いが強く多くの人が食しない。
4. ナルトビエイがアサリやタイラギを食べ尽くして漁民が困っている。
そう、ナルトビエイは有明海の厄介者であるが、大変美味しいのでこの食材を使った事業者を佐賀県は探していたんです。
でも、どう考えても事業化するのは難しいと思いました。
私たちは、もう少し話を聴きたいと思い、この研究を行っている「玄海水産振興センター」へ足を運びました。
私たちは所長さんから話を聴くために席に着きました。しかし、席に着くなり所長さんから出た言葉は「よく来られましたね。あんた達が、事業化するとね。」「いやいや、そうじゃないんです、」という言葉を聞かず、所長さんは隣の部屋へ。
そして、何やら隣の部屋からどこかに電話をされている模様です。
「おい、事業化するやつが、やって来たぞ」
「なんて事だ、そんな約束はしていないのに。。」
それから2週間後、私は電話の相手である有明海漁協のTさん(当時参事)と大浦の漁港に立っていました。
そこで、お迎え頂いたのは組合長さん。
「よく見えられましたね。」組合長さんは心から喜んでくださいました。でも、私の心の中では「やっぱり事業化は無理だ。
漁港には次々と駆除事業で揚げられてくるナルトビエイが。計量がすめばナルトビエイは産廃業者のトラックで運ばれていきます。港は臭いにおいとグロテスクな姿に包まれて、誰もナルトビエイには触ろうとはしません。
そんなか組合長が、「高橋さん、このナルトビエイの肝が旨かとよ。」と言いながら、ナルトビエイの腹を掻っ捌いて、中から大きな肝を出してその場で食べられました。「美味しか。」その光景は今でも忘れることができません。私に、食べろと言われなかったのが唯一の救いでした。
「高橋さん どうかしてくれんね。我々漁民はナルトビエイの被害で4ヶ月も仕事がなくて困っているとよ」
私は、一瞬の沈黙の後「はい、判りました。考えて見ます。
でも約束があります。今駆除事業をされている金額より安い価格で私たちに卸さないでください。
駆除事業と同じ価格でいいですから」この事業を進めるには、売り手よし買い手よし世間よしの「三方善し」がないと成立しいないと考えたからです。
佐賀県玄海水産振興センターが開発したハムやみりん干しなどナルトビエイ加工食品の試食会に参加したことがきっかけでした。
その試食会で、『どのように事業に活かしていきますか?』と取材を受け、
「ナルトビエイによって困っている人がいる。何とかしてあげたい」との思いを抱き、食材としての価値に注目し事業としてやっていくことを決意しました。
早速、私たちは考えました。
最初に思いついた案は。アカエイを好んで食べられる韓国へ輸出することでした。
有明海に韓国の船を入れて日本の船から韓国の船へ。
あまりにもグッドアイディアでした。
私たちは早速漁協関係者と一緒に、三池税関に走りました。
そこからは、思わぬ回答が。
「その案は止めてください。第一、日本の船から外国の船に移すことは密輸になります。一旦、浮き桟橋などに移す必要があります。」
そうなのか。
話が進むうちに課題が次から次へと。
まず、韓国側から
「毎月200トンのエイを渡して頂けるのか。」
「本当に200トン買っていただけるのか。(当時ナルトビエイは年間200トンの水揚げ)6月から10月までの五ヶ月の商いであっても1000トンは必要である。そんな事ができるのか。そうこうするうちに韓国側から「エイはアカエイではないのか、当方はアカエイしか買い取らない。。。」
そこで話は完全に頓挫。ボタンの掛け違えでナルトビエイの話は飛びました。
でも、この海外へ輸出するという話題が、地方紙に大きく掲載。これを機に、テレビ・ラジオ・新聞とマスコミ各社が弊社へ。
いつのまにか、ナルトビエイ=オフィスタカハシの構図が出来上がりました。 そして、マスコミがいつも弊社に尋ねる事。
「高橋さん、ナルトビエイが料理に使えることは判りましたが、商品はないんですか」「はい、商品はありません。わが社は肉を売るだけです。」
「そうなんですね」
マスコミさんの残念そうな顔。
市場は、「ナルトビエイを使った商品を求めているんだ」
私たちは、ナルトビエイを使ってくれそうな県内業者をくまなく回りました。
「臭いがね。。。」「グロテスクだね。。」
どこもいい返事をしてくれません。そして、風の便りに聞こえてくる言葉「あいつら馬鹿じゃない。商売になりそうにないのに」ああ、やっぱり駄目なのか。
「ここまで馬鹿にされたら自分達で商品開発するしかない」そう決意すると早速行動しました。
最初に作ったのは、ナルトビエイハム。
有明海漁協で試食をしたけど、女性の職員は誰も食べない。その理由は、カット面がグロテスクで口に入らないということ。男性職員の感想は「美味しい」でした。でも、女性に不評ということは売れないと予感できます。
では、何を作るか。その条件は、冷凍で長持ちする。すでに流通経路が出来ている商品。
ナルトビエイの姿を残さない商品。そう考えるとかなり絞られてきます。
そして、考え付いたのがしゅうまい。こうして「有明海鮮しゅうまい」が誕生しました。
しかし、試作第一号は「臭くて、臭くて」食べれるものではありませんでした。
そんな時に、一本の電話が。匿名のおばあさんでした。「先日、ラジオを聞いていたらナルトビエイの事が流れていたので電話しました。昔はよくナルトビエイを食べていましたよ。
すごく美味しかもんね、でも臭かもんね。昔は臭いを消すために梅酢をつかっていましたよ。
本当に困ったときの天の声でした。
私たちは早速、酢を探し始めました。候補に挙がったのは約10種類。
その中でも、この酢だったらうまくいきそうだという酢を使用。ナルトビエイの肉に酢を漬け込みました。そして、みごとに臭みを消し去ることの成功したんです。
しかし、製造メーカーからの電話。
「高橋さん 確かに酢で臭いは消えるけど酢の値段も高いし手間隙かかりますね。結構コストアップですよ。どうしましょう。。」
いい商品をなるべくお安く消費者に届けたい。
そう、思うと他の方法を考えなくては。
こんな時は、原点に戻るのが一番です。
あの運命の試食会で頂いた研究報告書を読み直しました。
その中に、ヒントが。ナルトビエイは殺処分しから12時間後に急速にアンモニア臭が臭くなる。
そのメカニズムは。
そもそもエイ類はサメなどと一緒で腎機能が未熟で、体内に尿素が溜まる構造である。殺処分されると、体内にあるウレアーゼという酵素が働いて、体内の尿素を水と二酸化炭素とアンモニアに分解する。分解された時のアンモニアが、あの臭い臭いとして出てくる。そして、ウレアーゼは、5℃~10℃以上になると働きだす。
ということは、殺処分してから工場まで運ぶ間、5℃以下で運搬すればいいし、12時間後に急激に臭いが出てくるので、釣り上げてから12時間以内に工場に届けば臭いがしないことを知りました。
この事を知った時の感動は何ともいえませんでした。
今までは、港で皮を剥ぐ作業をしてましたが、その作業が臭いを発生させる原因のひとつと判り、皮剥ぎは工場内の仕事に。
こうして、臭いを全く感じないしゅうまい。「有明海鮮しゅうまい」の誕生です!!
今では、郵便局と玉屋(佐賀県内に本拠地を置くデパート)のコラボ企画の「お中元お歳暮」や、ふるさと納税商品として知れ渡るようになりました。
ナルトビエイは、アサリやカキなどの二枚貝を好んで大量に食べるため、漁場を荒らしまわる害魚として、漁師のやっかいものでした。
私たちは、 ナルトビエイを使った特産品を作ることに全力を注ぎ、試行錯誤を重ねて『有明海鮮しゅうまい』を開発しました。